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無回答 2009/12/03 22:55:12
著者の渡辺惣樹氏は、現在バンクウバーに在住されていますが伊豆下田の出身です。
毎年下田で開かれる「黒船祭」には米海軍が参加するとのことで、十代の頃、艦上でアメリカの水兵さんたちと交流したことから、著者は英語に対する興味をかきたてられたと言います。
ペリーが九隻の艦隊を率いて来航し、日本に開国を迫り、日米和親条約を結んでから二年後の一九五六年、下田の町はずれにある曹洞宗の古刹・玉泉寺に初代米領事タウンゼント・ハリスが赴任してきます。
お供は通訳のヒュースケンただ一人。
ハリスは通商条約締結という重大な任務を負っていましたが、彼は元来教育行政を専門とする、いわば〝ノンキャリ〟外交官です。
身体が衰弱するほど孤軍奮闘したハリスが、ようやく通商条約締結にこぎつけたのは赴任から三年後の一八五九年のことでした。
ペリーの威容とハリスの孤独な戦い——。そこに示された対照的な対日姿勢が、解けない謎となって、ずっと心にわだかまっていたという著者は、一九八二年にカナダに移住して以来、折に触れてロスチャイルド・アーカイブスなどアメリカの史料館を訪れ、日本開国にかかわった人々の手紙やメモワール、当時の新聞記事などなど、その多くが手付かずのままだった史料を渉猟します。
そしてこれらの史料を読み込むうちに、故郷下田で抱いた疑問はすこしずつ解けてゆき、さらに著者は、日本に開国を迫った米国の「真意」を見出すのです。
本書は日本側の史料をも合わせて日米双方の関係者の動きを点描しながら、従来の通説(米国は鯨油をとるため鯨を追って日本にやって来た)とはまったく異なる狙いが米側にあったことを明らかにしていきます。
●中国の市場と安価な労働力を求める
米国側の関係者のなかでもっとも重要なのは、ニューヨークの弁護士出身のロビイストで、ネイサン・メイヤー・ロスチャイルド&サンズのアメリカエージェントだった、アーロン・パーマーです。
本邦初登場と言うべき名前ですが、このパーマーこそ、日本を深く研究し、開国のシナリオを書き、「日本に漂着した米捕鯨船員が虐待されている」とのプロパガンダによって米世論を砲艦外交へと向かわせ、日本遠征の指揮官としてペリーを推薦した人物なのです。
そのパーマーは何を狙って開国のシナリオを書いたのか。クレイトン国務長官宛の書簡にある次の一文が彼(=アメリカ)の狙いを端的にあらわしています。
「日本の海がハイウェイ(highways)となり、大動脈(thoroughfares)となったとき、アメリカの捕鯨船や商船だけでなく他の国も平和的な商業的繁栄を享受できる」
これを受けて著者はこう書いています。
「海のハイウェイは現代ではシーレーンと表現されています。
日本の海を利用する安全なシーレーンの構築でアメリカが享受できる便益は他国の比ではありません」。
なぜ日本の海が安全でなければならないのか。
アメリカの目はその先の中国にむけられていました。中国はアヘンその他の商売で利益のあがる市場であり、大陸横断鉄道建設のための安価な労働力の供給源であると見ていました。
平和な海を確保するためには日本と早急に和親条約を締結し、ニューヨークと上海を二十五日間で結んで情報面でイギリスを圧倒する。
しかしビジネスの点で言えば日本は魅力に乏しく、通商条約締結を急ぐ必要はなかった。
このアメリカの「真意」を知れば、ペリーとハリスに見られる対日姿勢の違いも納得できるのです。
結局、「鯨」は強硬策による日本開国で米国世論を統一するための口実にすぎなかったのでした。
日本開国の様相を一変させる、まさに「新・開国史」と呼ぶにふさわしい一冊と言えます。
歴史オタクにとっては、必読の書といえるでしょう。
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