No.5542
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SARSの舞台裏
by
Torontostar
from
トロント 2003/05/02 10:31:25
先週、WHOがトロントへの渡航延期勧告を出して以来、地元では政界、実業界ともに大揺れとなり、医療関係者との協力のもと、トロントの状況を正しく伝えるため、ジュネーブのWHO本部にチームが派遣されました。その結果、渡航延期勧告は撤廃され、公共の安全性に太鼓判が押されました。
そもそも、カナダでは「SARSに感染している『疑い』がある、または、『可能性』がある」人たちも感染者の合計に加えられていたため、「確認されたケース」のみをカウントしていた他の国とは、統計的に大幅なズレがありました。トロントでは、SARSについて、あまり知られていなかった初期の段階で、香港から帰国した2人の患者から、親族や病院関係者、彼らと直接的な接触があった人々に感染が広がった後は、ごく一部の医療関係者を除き、感染はほぼ沈静化されています。また、すべての感染者が、いつ誰から感染したのか判明しており、どこでかかったかわからない、いわば無差別的感染となっている香港や北京とは状況がまったく異なります。
当初、この状況に過敏になっていた住民の中には、予防策としてマスクを着用していた人も見られましたが、最近ではマスク族は絶滅。一方で、SARSのスクリーニングのための質問事項が職場や医療現場などで徹底され、過剰反応することなく効果的に予防策を講じる動きが浸透してきました。
現地の人々の生活上での変化としては、外から帰ったらうがいや手洗いを念入りにするようになったことくらいで、その他の面では、まったく平常とかわりません。
しかし、SARSの経済的影響は多大で、旅行業会、ホテルやレストラン、エンターテイメント業界では「911のテロ事件」よりもさらに深刻な打撃を受けています。そうした状況を打開するため、様々な企画が打ち出されています。
4月28日には、地元のメジャーリーグ・チーム、トロント・ブルージェイズのチケットが1枚1ドル(80円)で売り出され、スタジアムは満員御礼となりました。カナダでは、「国技」のアイスホッケー(NHL)やここ数年人気が急上昇しているバスケットボール(NBA)のゲームでは、ダフ屋が出るほどの盛況ですが、野球人気はいまひとつ。そうした野球離れにブレーキをかけるという意味もあって、この企画は一石二鳥でした。
エンターテイメントでは、ブロードウェイ・ミュージカルの「ママ・ミア」または「ライオン・キング」の上席チケット + ブルージェイズのボックス席または内野席チケット + 市内特選レストラン12店でのディナーがセットで$85ドル(6,500円相当)という破格の料金が打ち出されました。また、観光客向けには、各種チケットやディナーに加えて市内高級ホテルでの宿泊が付いて$125ドル(1万円相当)という、通常ならビジネス・ホテルの宿泊料金程度の値段でトロントのナイト・ライフが楽しめるというものです。
こうした動きで、活気を取り戻している地元とは裏腹に、国外では、情報不足からいろいろなデマが飛び交っているようで、メキシコでは、「トロントでは街全体が隔離状態で、人々はマスクを着けて外出している」という噂が広まり、語学学校では韓国人、日本人に次ぐ多数派のメキシコ人学生の間では大きな混乱が起きています。実際の現地の状況を知らない親たちから「帰れコール」がかかり、当の学生は帰国の必要性をまったく感じていないのに、無理矢理引き戻されたりしています。人口420万人のトロントで、SARS感染者はほんの数十人なのですが、正確な情報が伝わらないばかりに、とんでもない話に発展しているわけです。
ここまで飛躍がなくとも、おそらく、遠く離れた日本でも、大げさな報道が不安や恐怖心をあおっているのではないかと危惧しています。
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