No.13002
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プロローグ
by
偽作家
from
日本 2004/11/28 08:42:54
我が母よ、神は既に天上にはあらせられないようだ。この祈りを最後に人間と神は断絶するでしょう。祈りはもはや無意味です。
最期に神よ、せめて、無垢なる我が子達に明日の陽の光を。 12,2,2119
「聞け、既に二十八万の兵士を失った。残りも三割は負傷して戦力外だ。これ以上は持たない。明日の正午までには撤退を開始する。敵は我々が後退すると同時に動くだろう。砲撃の支援がいるんだ。・・・ああ、そうだ。わかってる。まず元帥に報告しろ。」 通信が終わると男は無線機を放り投げた。右隣に座っていた無線兵が少しの間を置いて、気まずそうにそれを拾い上げた。 指令部のテントの中にいる者達はみな沈黙していた。 彼らは気付いていて、既に覚悟している者もいた。明日の今頃には自分達全員が、否、人類が消滅しているかもしれない。
その日から十一日後、のちに史上に残る重要な書類が、旧日本首都内のその場所から発見される。 「Note of Extinction」と名付けられたその書類は、最重要度の極秘資料とされ、以後数十年、内容が公開されることはなかった。 「戦争の世紀」と評された二十世紀が終わり、次の世紀が到来し、更に次の世紀を迎えることになっても人間は戦争を忘れなかった。パックス=アメリカーナの時代に謳われた偽りの「平和」さえも、美しく映る混沌の時代が世界を支配した。 高度な情報技術、それに伴う軍事技術の発展により、世界はより狭いものとなり、二十世紀後半の冷戦時代を遥かに凌駕する規模の緊張が常に人々を脅かした。国境は曖昧となり、人種はますます特定できなくなり、その百年前まで通用していたアイデンティーは化石となった。 そして、世界は三つに分かれた。
これは文明の消滅と小さな再生の記録である。
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