2001年9月4日、すなわち9.11直前、AlterNetのBen Cohen氏はホームページに次のコラムを掲載した。
「米国の政治家は3440億ドルの軍事予算を正当化するため敵を求めている」と。
Ben Cohen氏はその論考のなかで、米国が求める敵として、イラン、イラク、北朝鮮、キューバ、リビア、スーダン、シリアの各国名を掲げている。9.11が起る1週間前のことである。
図1と図2は世界主要各国の2000年と2001年の軍事費を示している。
米国の軍事費は、約8000億ドルに及び突出している。米国の軍事費は世界の約5分の2、40%になんなんとしている。またGDPや国家予算規模で象徴される経済力もさることながら、軍事費に表現される軍事力でも圧倒的に他国を凌駕している。表1はまさにそれを示している。
表2にあるように、冷戦終結後、世界の軍事費は一端減少に向かった。だが、世界全体の軍事費の削減率に比べて米国の削減率は少ない。
世界30カ国※に軍事基地をもつ米国の軍事費は一向に減ることなく、世界の総軍事費の35%前後を占めるまで増え続けたのである。現在、米国の通常兵器の規模は、陸海空が約137万人の兵力、戦闘・輸送・偵察等の航空機が7000機、ジェット戦闘機を80機搭載可能な空母が12艇と、突出している。これらの兵力は、量だけでなく陸海空どれをとっても最新鋭の兵器で武装されていると言う意味で質的にも他国を圧倒している。
※ もし、30カ国に及ぶ米軍基地を駐留させている国家が負担する軍事費、防衛費を米国の軍事費
に加算すると、推定で米軍関連の軍事費は全世界の軍事費の50%をはるかに超える可能性がある。
9.11以降、米国は対テロ戦争を口実にさらなる軍事費の増加に転ずる。
その額は、日本の国家予算の半分、すなわち44兆円程度となる。図3に示すように米国の軍事費は国家予算約240兆円の6分の1、17%にも達する。
その結果、米国の軍事費が世界の軍事費に占める割合は一気に40%台にまで跳ね上がった。
表4は、陸軍の2002年度と2003年度の予算である。2003年度予算は、約12%増加していること分かる。これは以下の新聞記事にある軍事費総額の増加率とほぼ同じである。米国の軍事費は、米国以外の上位15カ国の総額よりも大きくなっている。これ自身、きわめて異常なことだ。
今や軍事は米国の最大、最強の公共事業と化している。
その背後には、世界一の強大な軍事産業が存在している。日本の土木系公共事業がそうであるように、米国では軍事系公共事業分野のロッキード・マーチンのような巨大企業を持続するために、国家予算が湯水に投入されている実態がある。これは軍需ケインズ政策とでも言えるものである。巨大な軍需産業を維持するために、戦争によるスクラップ・アンド・ビルトが不可欠となる。米国の帝国化はこれら軍事産業の存在と密接不可分と言えよう。
ここ1年、ブッシュ大統領やその腹心ラムズフェルド国防長官はイラクや北朝鮮などの大量破壊兵器の研究、開発、製造、使用、輸出を声高に叫んでいる。だが、誰の目から見ても明らかなのは、ベトナム戦争からアフガン戦争に至るまで、米国こそが世界最大の化学兵器、生物兵器、弾道ミサイル、核兵器の研究開発国、そして使用国である。
米国が湾岸戦争で最初に使った劣化ウラン弾がごく最近、アフガン戦争でも使われていたとする報告書が出た。劣化ウラン弾※については、元米国司法長官のラムゼー・クラーク氏(弁護士)が国際司法裁判所に米国を提訴している。劣化ウラン弾は、まさに小さな核兵器とも言える武器である。たとえいかなる理由があろうとも使ってはならない核兵器を使った唯一の国も米国である。米国が所有する核弾頭は実に6000発、人類を3回殺傷する能力を保持していると推定される。また、米国が声高に叫ぶ「大量破壊兵器」と通常兵器との区別もきわめて恣意的なものと思える。通常兵器に分類される巡航ミサイルやデージーカッター爆弾、劣化ウラン弾は、アフガン戦争でも米国に多用されている。これらがもつ殺傷能力は大量破壊兵器に準ずるものである。
このように米国は軍需輸出でも他国を圧倒的に凌駕している。表5は世界の軍需企業を売り上げ上位20社として示したものだ。20社のうち11社を米国が占めている。英国、フランスのそれぞれ3社もランキングされている。1位のロッキードマーチン社の年間売り上げは、過去5年日本円で2兆円〜4兆円の間を行き来している。この額は横浜市などの大都市の年間予算に匹敵する。
ところで日本の三菱重工も14位に位置している。憲法で戦争を放棄した国の企業が、世界の軍需企業ランキングの上位にいること自体きわめて不思議なことだ。このように米国は、まぎれもなく世界最大の武器開発国、使用国そして輸出国である。なぜこの国が他国についてあれこれ言えるのか。
米国こそ世界各国や国連の核兵器、生物兵器、化学兵器など大量破壊兵器の査察を受け入れるべきではないのか?
米国が世界各地で行なう戦争で米国の軍需産業がいかに利益を得ているかをアフガン戦争に見てみよう(以下は記事概要)。
9.11の同時多発テロ後のアフガン攻撃と対テロ戦争拡大のなかで、米国の軍需産業は空前の利権を得ている。アフガン戦争直後の2001年10月26目、米国防省は次世代戦闘機の開発と製造を軍需企業のトップ、ロッキード・マーティンに委託することを決めた。
受注契約高は2,000億ドル、実現すれば史上空前の契約となる。2,000億ドルと言えば表5に示された20社の売り上げの総額1,105億ドルの約2倍(約27兆円)に相当する巨額だ。日本の国家予算の4分の1以上、途方もない額である。ロッキード社が獲得した戦闘機の生産は米国用にとどまらず、同盟国英国、日本などでも、今後主力の戦闘機になる予定だ。主力戦闘機は、F16戦闘機(下の写真参照)やA10攻撃機、FA18戦闘機などに代わるもので、空軍1,763機、海軍480機、海兵隊609機が購入予定されている。英国も空軍と海軍が150機購入、米英だけで約3,000機の需要となる。
史上空前の契約後、ロッキード社の株が高騰し、CEOらは「不況のなかこの受注によって危機を脱した」と述べている。このように米英では軍需産業が最大の公共事業となっていることがよく分る。
※ 2001年10月27日、毎日新聞、次世代戦闘機:ロッキード・マーティン社に委託 米国防総省.
http://www.eritokyo.jp/war-env/newyearcolum2.html