イラク戦争は何だったのか
米英主導のイラク開戦後約一年半。ブッシュ米政権が最大の侵攻理由とした大量破壊兵器は今なお未発見のままだ。開戦判断は正しかったのか。間違いなら正当性は失われないのか。そんな疑問が内外で噴出している。
イラク戦争は独仏中ロが反対、国連は承認決議をしなかった。しかし、単独行動主義の米国は突入、小泉首相は全面支持した。
外遊中の首相は記者団に「イラクは過去に大量破壊兵器を使いながら、『国連決議に反していない』ことを証明しなかった。(イラク戦争支持の)日本の判断は正しかった」と正当化した。
しかし、大量破壊兵器を所有するとの日米両国首脳の判断は過誤ではなかったか。首相には経緯を説明する義務と責任がある。
「(大量破壊兵器の)備蓄はなかった。今後も発見はなさそう」。米上院政府活動委員会公聴会。パウエル国務長官は開戦の大義とした大量破壊兵器の事実上の発見断念を公式表明した。
米調査団のデービッド・ケイ氏も誤りを認めた。「存在は考えられない。証拠は一切ない」。今年一月の上院公聴会証言である。
パウエル長官と言えば、対イラク強硬論の強まるブッシュ政権内で国際協調路線を主張、数少ないハト派だった。
だが、長官は開戦直前の昨年二月、国連安保理外相会合で「イラクの生物兵器所有は疑いない事実」と主張、開発の証拠隠しの独自機密情報を示し、開戦の必要を訴えた。大義としたのは大量破壊兵器廃棄を求めた国連決議。日本など開戦支持派は大量破壊兵器の脅威を口実とした。
誤りを自ら認めたパウエル発言で、ブッシュ政権の「差し迫った脅威論」は崩れ去った。アナン国連事務総長も「米国のイラク攻撃は国連憲章違反」と追い討ちをかけた。
テロとの戦いを前面に掲げる米大統領は「イラクの脅威を取り除いた正当な戦争」と開戦の誤りを今なお認めない。しかし、独立調査委員会は旧フセイン政権の国際テロ組織アルカイダとの協力関係は「証拠がない」と認定した。
なぜこんなことになったのか。米国内では(1)地上要員不足(2)外国機関、亡命者情報の過信(3)内部チェック体制の不備−が原因と指摘された。ブッシュ大統領は国家情報長官職を新設、情報機関改革に早速着手した。
それにしても不可解なことではないか。誤認情報で開戦する。独立国家の政権を転覆させる。結果として罪のないイラク人多数を殺傷、米国兵も千人以上が死亡、多数が負傷した。
この厳然たる事実が無批判、無反省のまま看過されていいのか。きちんと検証し、同種のミス再発を防ぐべきではないのか。
「大統領が見つからないからといって、いなかったとは言えない。大量破壊兵器が見つからないからといって、なかったとは言えない」。フセイン元大統領拘束前、小泉首相が国会で繰り返した答弁である。
大量破壊兵器はいずれ見つかる。戦争は正しい。小泉首相はそうも言い続けた。奇妙な論理のすり替え、こじつけはないか。
米英一辺倒支持がイラク人道復興支援に結び付き、やがて自衛隊派遣につながる。隊員に死傷者が出ていないのが幸いだが、明らかなボタンのかけ違いであろう。
そもそも、イラク戦争とは一体、何だったのか。首相の説明責任は重い。「国際情勢いろいろ」などと、本質をはぐらかしてはいけない。最高指導者の資質そのものが問われているのである。
政治家は犯した過誤への対処法を見れば、真のステーツマンかどうかが、くっきり分かる。しっかりそこを見極めたい。
http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/sha2004/sha20040923.html