在日韓国人の国籍状況
日本は1985年に国籍法を改正し、国籍取得をそれまでの父系主義から父母両系主義に変えた。従って父か母、どちらかが日本人であればその子は日本国籍を取得することとなった。
一方の韓国でも国籍法が1998年に改正され、日本と同様にそれまでの父系主義から父母両系主義に変わった。これにより父か母、どちらかが韓国人であればその子は韓国国籍となる。
ところで拙論「第19題 消える「在日韓国・朝鮮人」 にあるとおり、在日韓国人の結婚は、同胞どうしの割合が十数パーセンにすぎず、残りの8割以上が日本人を相手とするものとなっている。とするとこの8割以上の在日は、その子が日本国籍と韓国国籍の両方を取得できる二重国籍者となる。別に言えば、その子供らは二重国籍となる権利を持つことになる。
しかし実際はどうであるのか。
在日韓国人が日本人と結婚した場合、子供の出生届を日本の役所に届けると、その子は父または母の日本戸籍に登載されて日本国籍となり、外国人登録されることはない。次にこの両親が韓国大使館あるいは領事館で所定の手続きを行なうと、韓国の戸籍に登載されることになり、韓国国籍となる。このとき初めて法律上正式に二重国籍となるわけである。将来韓国に帰国して生活する意思を持つ場合、あるいは子供に国籍の選択をさせたいと考える場合に、このような二重国籍となる。(下記註)
どのような場合においても、日本の法律でも韓国の法律でも、二重国籍の子供は22歳になるまでにどちらかの国籍を選択しなければならないとされている。従って二重国籍は22歳までの話である。
ところで韓国大使館等で行なう手続きは、当然韓国語で行なう。漢字のないハングルである。韓国語を知らない在日韓国人がこれをしようとすると、通訳を雇わざるを得ない。在日韓国人が日本人と結婚しても、将来韓国に帰ることはないし言葉も分からないので、本国へこのような手続きをすることは現実にはほとんどない。つまりかれらは子供に二重国籍を取得させることができるのに、そういう行動をすることはないのである。すなわち二重国籍は可能であるが、そのような選択を当人たちはすることなく、子供には日本国籍のみを持たせているのが現状である。
つまり在日韓国人は様々な選択があるなかで、大勢として二重国籍ではなく日本国籍を選択してきたし、これからもそうであろうということだ。
(註) 韓国の現国籍法では、「国外で出生して外国籍を取得した大韓民国国民は、出生後3月以内に大韓民国の国籍を留保する意志を表明しない場合には、その出生に遡って大韓民国の国籍を喪失する」とあります。つまり日本人と結婚した在日韓国人の子供は、3ケ月以内に在日公館に国籍留保の手続きをとると日韓の二重国籍となり、とらないと単一の日本国籍となります。
二重国籍の問題点
二重国籍者は複数の国家に所属する国民であるから、国家の対人主権が重複することとなる。従って兵役や参政権等で矛盾が生じるし、身分行為(婚姻や養子など)や相続でどちらの国の民法に準拠するか混乱することにもなる。また所属する国家間で、いわゆる外交保護権が衝突する可能性もある。
次に二重国籍者は二つの国からそれぞれ真正のパスポートを取得・行使できることになり、従って個人の同一性判断が困難となる。例えばA・B国の二重国籍者は、ある国にA国人として入国した際に犯罪を犯して国外追放されても、B国人としてすぐに再入国することが可能なのである。その国では二つのパスポートを持つ人が同一人物であることの確認が難しい。犯罪者にはまことに都合がいいことになる。
また二重国籍者は自分の属する二つの国で別人と結婚(いわゆる重婚)することができる。世界には男性に限り重婚を認める国があるが、日本を含めほとんどは認めていない。しかし二重国籍者はそれぞれの国で婚姻届を出すことができる。そしてそれぞれの政府機関はそれぞれの民法に照らして合法であれば受理されることになる。一旦受理されると、一方の国の裁判で重婚だから無効と判決されても、もう一方の国での有効性を取り消せるものではない。二重国籍は重婚の防止が困難なものである。
また二重国籍者は第三国で遭難した場合、どちらの国が保護に乗り出すのか。あるいは第三国で罪を犯した場合、どちらの国に強制送還となるのか。これは外交的摩擦となるだろう。
あるいはまたオリンピックなどの国際競技において、二重国籍者は出場することができない。陸上百メートル障害日本記録保持者の金沢イボンヌさんは、当初二重国籍を疑われたが日本の単一国籍と判明し、晴れてオリンピックに出場できた、という記事がスポーツ新聞にあった。
二重国籍は解消すべき
戦前の国際連盟でも、戦後の国際連合でも、国際法委員会で無国籍と二重国籍を解消させる旨が決議されていたと記憶している。
国家が自国民の範囲を決める国籍は、それぞれの国で事情が異なるので、国際交流が盛んになると、二重国籍の発生は避けられない。しかし、国家が国家たる以上は、二重国籍を解消し、単一国籍にしようとすることは当然のことであろう。
日本や韓国の国籍法が、二重国籍を持つ者に対して、成人(20歳)になってから2年経過するまでにどちらかの国籍を選択して単一国籍にせよ、となっているのは、現状においては優れた制度である。
このような国籍選択制度は、世界的にかなり新しいもので、他にイタリア、メキシコ、シンガポールなどにあるが、これから広がっていく制度だろうと考える。
(追記)
日韓の二重国籍を持つ在日韓国人の場合、パスポートは日本政府が発行することになります。一方の在日韓国公館では、在日の自国民にパスポートを発行する際には日本の役所の「外国人登録済証」の提出が必要とされています。二重国籍の在日韓国人は日本国民として住民登録されますが、外国人登録されていませんので、韓国のパスポートを取得できません。つまり二重国籍ですが、両方の国から同時にパスポートを持つことができない仕組みになっています。
在日韓国人が日本ではなく第三国の国との二重国籍の場合は、日本国民ではないので外国人登録されますが、在日韓国公館がパスポートを発行するかどうかは把握していません。
韓国国籍法の改正を1997年としていましたが、これは国会通過した年で、施行は翌98年6月です。よって1998年に訂正します。(2004年5月16日記)
一部訂正改変。(2004年12月23日)
(追記)
フジモリ氏の二重国籍
元ペルー大統領のフジモリ氏は、ペルーだけでなく日本の国籍をも有する。だからこそ日本に亡命し、日本は自国民保護の理念から彼を受け入れた。
二重国籍について拙論では第33題で論じた。ここでは二重国籍に否定的な見解を呈示した。その理由の一つに
「所属する国家間で、いわゆる外交保護権が衝突する可能性もある。」
としたのだが、今回のフジモリ氏の件はまさにその通りの事態となっている。
http://www.sankei.co.jp/news/051113/kok028.htm
しばらくは推移を見守るしかないが、二重国籍が国際摩擦を引き起こした例として記憶に留めるべきものだろう。
二重国籍を認めよと主張する人がおり、そういった活動も盛んなようだ。だがやはり二重国籍は問題が多く、解消する方向にいくべきであろう。
2005年11月13日記
(追記)
フジモリ氏が二重国籍を維持している理由
フジモリ氏が二重国籍をなぜ維持しているのかについて、疑問を持たれる方がいました.
その方はK国に帰化したところ、1年半ほどして日本政府より日本国籍離脱の手続きとパスポートの返還を求められました。その時、日本では二重国籍が認められないことを改めて知ったそうです。
ところがフジモリ氏は二重国籍であり続けている、これは何故か?という疑問です。
これは国籍法附則第3条の「国籍選択に関する経過措置」に基づくものです。
この国籍法では、二重国籍者は20歳になると2年以内にどちらかの国籍を選択しなさい、となっています。しかし、この法施行時(1985年)に二重国籍である20歳以上の人はどうなるかについて、附則第3条で経過措置を設けました。
これは日本を選択したものと見なして、日本国籍は喪失しないこととし、もう一つの国籍は不問とする、というものです。分かりやすく言えば、二重国籍のままでよい、ということです。
フジモリ氏はこれに該当しますので、二重国籍を維持しているのです。