目撃者を探しています
「息子の無念晴らしたい」目撃者探す母
痴漢と呼ばれ事情聴取のあと自殺
昨年12月11日朝、25歳の男性が自殺した。男性が死に場所に選んだのは、大学時代に通い慣れた地下鉄早稲田駅のホーム。男性は前夜、JR新宿駅構内で酒に酔った女子大生と男子大学生2人に「痴漢」と呼ばれて激しい暴行を受けた後、警察に連行され、夜通し“被害者”として事情聴取を受けていた。突然、1人息子を失った母親はいま、新宿駅で目撃者捜しを続けている。
「息子は11日の早朝に警察から解放された後、1時間近く都心をさまよっていました。極度の近視だったのにコンタクトレンズを外しており、ほとんど視界はなかったはずです。息子は英語の勉強のために普段からICレコーダーを持ち歩いていましたが、当日も事件直後からスイッチが入ったままでした。その中には、息子の泣き声や聞き取れないつぶやきだけが入っていました」
母親の原田尚美さん(53)は、自殺した長男・信助さんの26歳の誕生日にあたる先月30日、事件があった新宿駅で本紙の取材に応じた。尚美さんはほぼ毎晩、新宿駅西口などで暴行の目撃者捜しのためにビラを配り続けている。だが、2時間近く声をからしても、受け取るのはせいぜい4−5人だ。
信助さんは2008年に早大商学部を卒業後、宇宙開発研究機構(JAXA)に入社。1年半後の昨年10月、都内の私大職員に転じた。
仕事に慣れ始めた12月10日午後11時過ぎに事件は起きた。
職場の歓迎会の帰り、乗り換えのため新宿駅の15番線(山手線三鷹方面)のホームに向かおうと西口の北通路代々木側階段を上った際、すれ違った女子大生に「腹を触られた」と訴えられ、仲間の男子大学生2人に階段から突き落とされた後、馬乗りで暴行を受けたのだ。
「その後、息子は新宿署に任意同行を求められました。その様子はすべてICレコーダーに録音されています。息子は、自分は理由もなく暴行を受けた被害者だと訴えましたが、痴漢の容疑者として取り調べられました。息子は担当の刑事さんに、『私はこれから、ニュースでよく聞く“痴漢冤罪被害者”として人生を歩まなくてはいけないのでしょうか』と訴えていました」
大学生に馬乗り暴行受け
信助さんは翌朝の午前5時45分、再び事情聴取に応じる確約書を書いたうえでようやく開放された。だが、家には帰らず、新宿駅のコインロッカーにかばんを預けた後、JR中央線で東京駅へ。さらに地下鉄東西線で早稲田駅へ向かい、午前6時40分、早稲田駅で電車に身を投じた。新宿署を出てからわずか55分後。東京駅地下通路の防犯カメラには、やつれきった様子で視点も定まらずフラフラと歩く信助さんの姿が写っていた。尚美さんはやりきれない表情で語る。
「警察は死んだ息子を送検し、被害者死亡で不起訴処分となりました。でも、息子は絶対に痴漢はやっていません。大学時代の友人やJAXAの元同僚、大学の同僚や先生方も全員、『原田君は絶対に痴漢なんてしない』と涙を流してくれます。警察は大学生たちの情報を一切教えてくれませんし、東京地裁も不起訴記録の不開示を決めました。私は息子の無念を晴らすために真実を明らかにしたいのです」
尚美さんは駅頭での目撃者捜しと同時に、これまで触れたことのなかったパソコンやインターネットを独学で学び、ブログを開設。信助さんが使っていた携帯電話を連絡先として情報提供を呼びかけている。
ブログのアドレスは
http://harada1210.exbrog.jp/
(夕刊フジ2010年5月7日号より参考のため転用)