政府が見て見ぬふりをする養子縁組と言う名の『人身売買』〜海外へ売られて行く日本の赤ちゃん
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【日本の赤ちゃんが海外に売られている】読売新聞記者の高倉正樹(現在、東京本社地方部在籍)さんが、そんな、ショッキングな現実を初めて知ったのは、今から5年前のこと。
盛岡支局時代、児童虐待に関する取材で知り合った大学助教授と雑談する中で、偶然、耳にした噂だった。正確に言うと、斡旋事業者の手によって、海外の夫婦に売られている。取り締まる法律もないから、犯罪にはならない。
そもそも、何人の赤ちゃんが、海外に渡っているのか、誰も分からない。その助教授も詳しいことを知っている訳ではなかった。
だが、この話は、高倉さんの心を強く捉え、独自に取材することを決意させた。『サツ回り記者(県警担当)』としての通常業務の合間を縫いながら、丹念に調査を進め、片っ端から関係者にあたって取材を重ねた。すると、驚くべき実態が、次々と明らかになってきたのだ。
養子となるのは、『女子中高生の妊娠や、性的暴行による妊娠』など、所謂、『望まない妊娠』によって生まれた子供が中心です。生みの親や、その周囲は、出産の事実そのものを、忘れ去りたいと言う願望もあって、赤ちゃんを、海外へ養子に出すケースが多い。
その橋渡し役をしているのが、民間の養子斡旋事業者であり、全てではありませんが、一部で、養子斡旋に名を借りた『人身売買』が、野放しに行われているのが現状なのです。養子斡旋事業者の内、自治体に届け出ているのは、8事業者のみで、他にも、20以上の事業者が無届けで、斡旋活動をしていることが、高倉さんの取材で判明した。
こうした、斡旋事業者に、養子を希望する海外の夫婦が支払う金額は、なんと、200万円〜300万円。また、東京都内のある斡旋事業者は、『斡旋料は無料』と言いながら、養子を希望する夫婦に、550万円の寄付を強要していた。別の夫婦は、斡旋費用が高いと苦情を言った途端、『障害児なら安くする』と持ち掛けられたと言う。
まるで、赤ちゃんを商品のように扱っているのです。養子を希望する海外の夫婦には、なるべく、『健康で生後まもない赤ちゃんを、出来るだけ、迅速に欲しい』と言う願望がある。だから、日本の赤ちゃんは、海外で人気があり、値段が多少高くても、欲しがる夫婦が絶えないのです。
更には、静岡にある養子斡旋事業者は、『不倫相手の子を妊娠』してしまったと、相談してきた女性に対して、『我々と協力関係にある病院で出産した後、赤ちゃんを公園に置き去りにしてくれれば、我々が直ぐ引き取り、警察には捨て子として届けるから、あなたの戸籍には傷がつかない。後は、こちらで養子に出しておく』などと言った。常識を疑うような提案をしていたケースもあったと言う。
斡旋事業者は、それも、『赤ちゃんの命を救う為であり、海外に斡旋するのは、子供の幸せの為』だと言います。養子への理解が乏しい日本では、国内で養子縁組をしても、『子供が肩身の狭い思いをするだけだから』と言う理由で、自らの正当性を主張するのです。
しかし、本当に外国に旅立った赤ちゃんは、みんな幸せになったと言えるのでしょうか。国も行政も斡旋事業者も、海外に渡った赤ちゃんの行く末を、まったく把握していないのが現状なのです。
日本では、親元で暮らせない要保護児童の9割超が、児童養護施設や乳児院で過ごし、里親家庭に預けられるケースは少ない。ならば、『施設で暮らすより、外国の裕福な家庭に引き取って貰うほうが、子供の為に良いのではないか』と言う意見もある。
だが、高倉さんは、こう反論する。89年に、国連が採択した『子供の権利条約』では、国内での養子縁組を優先し、出来るだけ、海外に出さないよう、締約国に求めています。国境を跨る海外養子縁組は、『児童売買や児童ポルノ、臓器売買』の隠れみのになりかねないからです。日本の赤ちゃんが、これらの犠牲になっていないと、断言することは誰にも出来ません。
海外養子を巡る黒い噂。それを追い続ける高倉さんの取材も困難を極めた。
斡旋事業者や関係者に取材依頼をしても、けんもほろろに断られることが多く、手紙を書いたり何度も訪問したりして、やっと重い口を開いてくれた人もいました。
上司からは、駅のホームでは、先頭に立つなと忠告され、ある斡旋事業者からは、『これ以上、我々の周辺を取材するなら、何かよくないことが起きるだろう』と言った、脅迫めいた電話がきたこともありました。幸い、身辺に危険なことは起こりませんでしたが、この問題が孕む深い闇を覗き込む思いでした。
厚生労働省によると、00年度からの4年間で、計106人の養子が、日本から海外へ斡旋されている。更に、この他にも、70人以上が、無届け事業者によって、海外へ斡旋されている事実が、高倉さんの独自調査によって明らかになった。
しかし、実際には、もっと多くの赤ちゃんが、海外へ渡っていることは間違いない。しかも、国連・子供の権利委員会は、日本に対し、『養子縁組の監視体制が不充分』と繰り返し警告し、ハーグ条約(国際間の養子縁組のルールを定めた条約)を、批准するよう勧告しているにも拘わらず、日本政府は、それを無視し続けているのだ。
日本政府は、問題とする程、海外養子の数が多くないと認識しているのか、この問題に積極的に取り組もうとしていません。しかし、人数が多い少ないの問題ではなく、法律も規制もない中で、日本の赤ちゃんが、海外に売られていること、そして、その後、如何なっているのか、誰も把握していないこと自体が問題だと思うのです。
当然ながら、赤ちゃんは、自分の養子縁組に対して、『何の意思表示』も出来ない。だからこそ、大人が、赤ちゃんの権利を最優先する養子縁組を、確立することが大切なのだ。
『望まない妊娠』をしてしまった女性や、養子を欲しいと願う海外の夫婦達。どちらも、責めることは出来ません。また、養子斡旋事業者ばかりを責めたい訳でもありません。最も責められるべきは、この問題に無関心な日本政府です。養子縁組に関する国内法の整備や、ハーグ条約の批准は、出来る限り、早く行わなければならないと思います。
命に拘わる問題は、もっと沢山の人に耳を傾けて欲しい。このトピックを通じて、改めて、『小さな命の大切さ』を感じ取って欲しいと願っています。一つの命の重みと愛おしさ。