十月十七日、小泉総理が靖国神社を参拝した折、ドイツで日本批判が噴出したことである。なぜドイツが、と訝(いぶか)る向きもあったろうが、これには訳がある。
この時期、ドイツのフランクフルトでは国際書籍見本市が開催中で、今年は韓国がゲスト国として招かれていた。韓国は百五十万ユーロ(約二億一千万円)を投じ、自国の文化紹介で成果を挙げたが、ひときわ目を引いたのは、小泉総理の参拝翌日に開催されたオープニング・セレモニー席上での、李海●・韓国首相の痛烈な日本批判であった。
「ベルリンの壁」による東西分断を経験したドイツだけに、同じ冷戦の犠牲となった南北朝鮮の悲劇は関心を引かぬはずがない。しかも、世界各国から自著の宣伝も兼ね、著名な文化人や政治家が数多く参加していたから効果はてきめんで、多くのドイツメディアが、この日本批判を取り上げるところとなった。
さらに十一月七日には、国連人権委員会の特別報告が日本の在日朝鮮・韓国人への差別問題や同和問題にも言及したことを受け、中国、韓国、北朝鮮の各代表が国連の場で、こぞって日本批判の大合唱を展開、さも日本が差別大国でもあるかのような印象づくりを行っている。
それにしても、手法はともかく、この巧みな両国の海外宣伝戦略には舌を巻く。
≪翻弄される「情けない国」≫
一方、日本はどうであろうか。確固とした情報戦略などあるやなしやの状態で、海外向けに自国のPRを行うことすら、なぜか及び腰だ。
在外公館をはじめ海外出先機関の重要な任務の一つは、徹底的な専門教育を受けた優秀な情報担当官(あえてスパイと言ってもよいが)による現地での情報収集活動にある。ところが、こうした活動は、わが国の場合なぜか機能してこなかった。
誹謗(ひぼう)中傷、あるいは明らかに捏造(ねつぞう)と思われる情報であれ、他国は日頃から丹念に収集・分析し、いざというときの“切り札”に保管している。出先機関が現地の政治にも深く関与すべく動き、時と場合によって、クーデターにだって手を貸すこともある。それが世界の現実なのである。
もしも日本が、こうした危機管理術、情報収集能力にたけていたらどうだったか。少なくとも、拉致被害者の横田めぐみさんらは、とっくに奪還されていたに違いない。
これまで、その危機管理、いうなれば現地における情報活動や海外宣伝活動をなおざりにしてきたために、日本はいまだに北朝鮮から翻弄(ほんろう)され続けている。世界の多くの国は、日本を危機管理が欠落した「情けない国」とみているのではないか。
http://www.sankei.co.jp/news/051114/morning/seiron.htm